5月 2008アーカイブ

公示価格と実勢価格の関係

不動産価格の指標となるものとして
公示価格というものが、あることは
ご存知のとおりです。

不動産鑑定においても、土地の取引事例価格を
算出する時には、近隣の公示地を決めて
その価格とバランスが取れているか
検討する作業が、あります。
概ね±10%圏内にあることが
バランスが取れているといえる
基準となります。

ただ、この公示価格ですが
これは、地域毎の担当の鑑定士がいて
その鑑定士が決定しています。

また、その価格決定においては、
担当鑑定士が、独断で決定するのではなく
その周辺の公示地を担当する鑑定士との
間で、調整を重ねて価格を決定します。
そういった意味では、地域のバランスを
考慮した上で、価格が決定しています。

では、価格決定においては、その土地の
実勢価格を完全に反映して決定して
いるかといえば、必ずしもそうでは
ないようです。
公示価格は、相続財産の評価に影響する
路線価や、固定資産税評価にも
関係しています。
(通常 公示価格10 路線価8 固定資産税評価7の割合です)
そのため、公示価格の急激な上昇は、
納税者に負担を強いることとなることも
あり、大幅な上昇は、あまり好まれない
ようです。

そういった意味では、公示価格は
経済指数でいう、遅行指数(実態=実勢価格よりも
遅れて反映する指標)に分類されるのでしょう。
不動産市場での、遅行指数としては
賃料も、それにあたるのではないかと
思っております。

賃料は、通常2年に1度改訂される性質のため
市場価格を反映しにくいものですが
(不動産鑑定実務では、新規に契約する時の
 新規賃料と、契約更新の時の継続賃料では
 異なった計算方法をします。)
不動産の価格が上がれば、直ちに賃料に
反映されるものではなく、少し遅れて
反映されます。

特に首都圏のオフィスビル賃料は、ここ
最近、上昇傾向にあるということは
このような賃料の性質を、あらわしている
のでしょう。

今は不動産バブルか?

不動産価格は、最高点に達し、これからは
下落傾向にあるのでは、というのが、最近の
不動産価格に対する風潮ではないでしょうか?

どのような価格も一辺倒に上がり続けることはなく
上がれば下がる、下がれば上がるを繰り返しながら
つまり、波動を描きながら
価格というものは推移していくものです。

ということを万人は経験則から知っているから
今まであがりつづけた不動産価格は、一旦
下落傾向に入ると考えているのでしょう。

それでは、平成初期のバブル経済時期と
今と比較すれば、次のようになると思っています。

いずれの時期も不動産価格の上昇傾向から
下落傾向に転じた時期という点では一致しています。
しかし、その価格形成については、随分異なる点が
あります。
平成初期では、不動産の取引価格で価格が決定する
ことが一般的でしたが、今では取引価格だけでなく
収益価格で価格が決まることが多くあります。
つまり、不動産の金融商品化により、不動産から
あがる収益が、不動産価格を決定する大きな要因
となりました。

取引価格というものは、第三者間の取引であれば
客観的な市場価格と言えますが、価格の根拠という
ものは、当事者間で納得した価格というもので
近隣の相場感や将来見通しなど、突き詰めて考えれば
あいまいなものと思います。

一方で、収益価格は、不動産の収益性について調査分析し
たもので、その根拠というものは、数値によって
説明可能なものです。
また、不動産ファンドに入る不動産については、
土壌汚染、耐震性等の調査(デューデリジェンス)をした
上で価格を決定していることから、その価格に
ついては、それなりの根拠をもったものと言えます。

ただ、米国のサブプライムローンのように、偽りを
基につくられた価格であれば、問題の傷は深くなることも
あろうかと思いますが、私の知る限りにおいては
信託銀行によるチェック、不動産鑑定業者による不動産価格決定
金融機関による融資審査等において、
米国のサブプライムローンのように、偽りの書類を
利用していることは、ないものと思っております。

ということから、今後不動産価格が下落傾向に
入るとしても、今 形成されている価格は
収益価格のウエイトが大きく、その価格については
それなりの根拠をもったものであることからも
平成初期のようなバブル崩壊により、不動産市場が
機能しなくなるほどの下落は、ないものと
見ております。

もちろん、不動産の金融商品化により、金利動向や
金融機関の姿勢は、不動産価格に影響することは
間違いないと思います。

建物による賃料の違い

不動産流動化での不動産評価は
収益価格が中心となることは
ご存知のとおりです。
その時のベースとなる賃料ですが
建物の種類によって、傾向がことなります。

住居系の不動産(通常、レジデンシャルといいます)の
賃料は、新築時が最高で、その後、
下落傾向に入ります。そして、一定のレンジまで
下落すれば、概ね横ばいで推移します。

そういった意味では、レジデンシャルの不動産の
賃料予想は、比較的容易なのでしょう。

一方で、オフィスビルの賃料は
世の中の景気動向によって、大きく左右されます。
同じビルでも、今と5年まででは
今の方が賃料水準が高くなっていることが
一般的です。
つまり、5年前より、今は、景気見通しが
良いということなのでしょう。

もう少し、深く考えれば、レジデンシャルの
需要者である個人は、人口が変動なければ
需要量は変わらないこととなります。
一方で、オフィスビルの需要は、景気動向が
良くなれば、需要も伸びるが、景気が悪くなれば
需要が減るということなのでしょう。

そういった意味では、レジデンシャルよりオフィスビルの
方が、将来賃料の予想は難しいでしょうから
収益価格の算定も難しく、前提条件によって
収益価格に、大きな開きがでることでしょう。

建物の評価

不動産である建物は、通常どのように
評価するのでしょうか?

不動産鑑定では、建物の構造やグレードから見て
評価時点で、新築の建物を建設することを
想定した価格(再調達価格といいます。)を
まず算出し、そこから
実際の建物の
 〃佛による減価
◆(理的な劣化状況からみた減価
 建物の機能が陳腐化することによる機能的減価
を控除して、評価額を決定します。

(計算式)
建物評価=再調達原価-減価額

この方法では、建物は新築が最高の価値で
それ以降は、新築価格より低くなります。

また、最近の建築コストの上昇により
実際の建築コストより高い評価額が
算出されることもあります。

私どもの事務所は、大阪の目抜き通りである
御堂筋に近いこともあり、ちょうど昭和40年代の
建築ラッシュに建てられたビルが、築年数が35年程度
経過することもあり、建替工事もところどころで
行われています。

先ほどの建物評価の計算式では、35年程度経過すれば
残存耐用年数がゼロに近くなり建物評価が
ゼロに近い数値になります。

ところで、建物の評価は、残存耐用年数が
ゼロになれば、本当にゼロなのかどうかは
実際に考えてみたところ、疑問を感じます。

イギリスでは、経年20年の建物より経年50年の
建物が評価が高いということです。
これは、50年経過しても、大丈夫な建物は
しかっりしたものであるため、高い評価に
なるとのことです。
古いものを大切にするという国民性も
あるのでしょうが、価値観によって
建物の評価方法は、異なるということです。

これから、リサイクル社会になるためにも
今の日本の建物評価の方法は
本当に正しいのか、一考する必要が
あるのかもしれません。

資産除去債務の会計基準

今年の3月31日に、企業会計基準委員会が
「資産除去債務の会計基準」を公表しました。

http://www.asb.or.jp/html/documents/accounting_standards/

不動産を保有する会社(SPCを含みます)に関係あることは
不動産に、アスベストがある場合の除去費用、PCBの除去費用
土壌汚染の除去費用について、将来たとえば5年後に
除去する場合、その除去費用の現在価値を、現時点の
債務(損益計算書上では、損失)として計上することとなりました。

この会計基準の導入時期は、2010年4月1日以降に開始する事業年度
からとなっています。

通常、不動産証券化では、アスベスト、PCB、土壌汚染などが
あれば、証券化対象不動産から除外されるので、この会計基準を
適用されることは、まずないものと思います。

しかし、一般事業会社では、このような有害物質を含む不動産を
保有する可能性は、あるかと思います。
従来は、このような資産除去債務の計上については
各社バラバラでありましたが、今回の会計基準の適用により
一定の方向に収束するものと思われます。

また、これだけではなく、今後は、投資不動産の時価評価などの
会計基準の変更もありますので、不動産を保有する企業にとっては
リスク要因について、今まで以上に配慮する必要性が
高まっていることは間違いないと思います。