8月 2009アーカイブ

SPCがなかったら

先日、大手監査法人の大阪事務所の
幹部クラスの会計士の方と、お話しする
機会がありました。

私どもの事務所で、SPC関係の
仕事をしていることは、ご存知
でして、SPCについての話題と
なりました。

そこの大手監査法人では、いわゆる
老舗の大手企業も関与先としていて
不動産関係事業で、SPCを利用した
ことがある、又は利用している企業も
いくつかあります。

その幹部会計士いわく、SPCが
なかったら、老舗の大手企業の
ひとつは倒産していたのではないかと
言われていました。
というのは、今から10年ほど前では
大手企業では、不良資産の処理や
不振子会社の処理等で、多額な損失を
計上する企業も少なくありませんでした。
当時は、SPCを利用した不動産の
オフバランンス処理について、
今で言う5%ルールや連結子会社に
する厳格な基準がなかったため
含み益ある不動産をSPCに売却して
売却益を計上し、その見合いで
不良資産の処理をするケースが
随分行われました。

それで、負の遺産を処理して
本業に専念して、業績を回復した
企業が多くありました。

今、同様の会計処理を
しようとしても、同じ結果に
ならなかったでしょうから、早い時期に
してところは、やり得の面は
否めないところです。

その後、含み益を計上する手段として
SPC利用が横行し、それを制限する
会計上のルールが整備されたことは、
皆さんのご存知の通りです。

SPCに対する会計処理については
いろいろな目で見られますが
企業の破綻を食い止めるために
利用されたこともあったことを
知っておいていただいても
良いと思います。

リートの役割は大きい

少し前までの不動産流動化
スキームのビジネスモデルを
支えるものとして、リートの
役割について、触れました。
リートは、SPCが保有する
不動産の出口戦略の担い手としての
大切な役割があります。

昨今の不動産不況のため、リート
自身の経営が行き詰まったり
信用力が低下して、出口戦略の
大切な担い手としての役割を
果たせなくなりました。

需要者としてのリートが
なくなったことで、行き場を
失った不動産が、沢山あらわれ
市場では、売物件が、多くなり
価格も大幅に下落してしまいました。

さすがに、これでは不動産業の
負のスパイラルから抜け出せないと
見たのか、国も支援を開始することと
なりました。

これで、少しは、市場も落ち着きを
示し始めています。

金融技術も陳腐化する

自動車産業等の製造業や
医薬品等の製薬業では、日々
技術革新をして、進歩して
きました。
これらの企業は、日々研究開発に
注力して、競合企業と競争しています。

例えば、自動車では、ハイブリット車の
登場、今後は電気自動車の普及などの
更なる技術革新が予想されます。

一方で、不動産証券化ビジネスでは
どうでしょうか?
SPCを利用したノンリコースローンが
普及し始めたことでは、これらの
ノウハウを持っている企業と
そうでない企業との情報格差は
大きなものがありましたが、
最近では、ノンリコースローンを
経験した企業が増えたため、情報
格差は縮小してきました。
つまり、単純なSPCを利用した
ノンリコースローンのスキームは
金融技術として、陳腐化が進んで
きました。

であれば、製造業のように
新しい金融技術を開発することが、
証券化ビジネスに関わるものの課題では
ないかと思っています。

それは、対象資産を変えてみるのか
スキーム自体を大きく見直すのか
工夫が必要なのでしょう。

不動産鑑定業界は、厳しい

今年から不動産鑑定業を
開始しましたが、この業界の
諸先輩方とお話する機会では、
今の不動産鑑定業界は、
非常に厳しい状態という言葉が
出てきます。

バブル経済崩壊後の失われた
10年と言われる期間は、金融機関の
破綻、事業会社の破綻等により
事業再生に伴う鑑定評価が
多くありました。

また、近年までの不動産投資ファンドの
活況によりファンド関係の
鑑定評価も多くありました。

今では、事業再生も従前ほど、さかんに
行われることもなく、また不動産
投資ファンドも今までのような
新規組成がなければ、鑑定評価の
案件も限られてきます。

となれば、公的評価に依存する
ウエイトが大きくなるのでしょうが
行政機関も厳しい予算の中で
鑑定を依頼するため、こちらも
厳しい状態が続いています。

しばらくは、不動産鑑定業界も
厳しい試練の時期が続き
そうです。

SPCの監査報告書にGC(継続企業疑義)注記

最近の不動産市況の悪化や
見通しの不透明さから、会計監査を
受けるSPCの監査報告書に、GC
注記(継続企業としての疑義がある旨の
注記)がされることがあります。

そもそもSPCは、存続期間が
決まっている訳であるから
継続企業の注記をしなければ
ならないものかは、よく検討しなければ
ならないと思います。

GC注記をするのであれば、案件の
トリガーとなっているLTVや
DSCR基準に抵触する可能性が
ある場合になるものと思います。
その場合、SPCは保有不動産を
予定時期を早めて、売却しなければ
ならず、継続企業としての疑義が
あると言えます。

ただ、SPCの場合、もし保有不動産等の
資産を売却して、売却損が
発生する場合は、まずはエクイティ投資家が
損失を負担し、それでも不足する時は
金融機関が負担します。
(ノンリコースローンで、他のプレイヤーが
保証書等を差し入れていない場合)
そのため、継続企業の注記をしたからと
言って、投資家や金融機関は、改めて
驚くことはないと思います。

しかし、リファイナンスを予定している
SPCは、GC注記が付けば、リファイナンス時に
妨げになることは考えられます。

不動産の金融商品化を検証

数年前までの不動産価格の
上昇の要因として、不動産の
金融商品化という言葉が、よく
使われました。

日本版REITの登場、SPCに
ノンリコースローンをつけての
資金調達の増加など、不動産の
金融商品化により、金融市場から
不動産への資金が流れやすくなり
不動産価格の高騰を招きました。

金融商品化により、収益性のある
不動産は、収益価格で評価する
ことが常識になりました。
収益価格は、純収益を還元利回りで
割り戻して価格を算定する方法です。

最近の不動産価格の下落要因は
不動産の収益性である純収益
よりも還元利回り(又はキャップレート)
の上昇によるものが大きくなっています。

かといって、最近の金融市場を
見て目立って金利が上がったという
ようなことはなかったと思います。
ではなぜ、不動産価格を算定する
際の利回り(キャップレート)だけが
金融市場の市場金利とは別に
上昇したのでしょうか?

これは、おそらく不動産の流動性による
ものでしょう。
つまり、従来までは、REITや
SPCが大型不動産の需要者に
なっていましたが、今では金融機関の
融資の厳格化や手元流動性を確保のため
従来のような需要者ではなくなり
不動産の流動性が、大幅に低下しました。

DCF法で評価すれば分かりますが
不動産価格のうち、DCF法の計算期間
(通常10年程度)の収益額より、
計算期間終了時点での価値(ターミナル
バリュー)の占める割合が高く
物件の売却見込額が価格に大きく影響します。

言い換えれば、流動性の低下は
不動産価格を大きく引き下げ、
つまるところ、利回り(キャップレート)が
上昇します。

不動産に関する金利は、債券等の金利とは
異なる動きをします。

SPC→REITのビジネスモデルの変貌

数年前までの不動産流動化の
ビジネスモデルとして、GK等の
私募ファンドで、資金調達をした
開発物件に、リーシングをかけて
一定のテナントを付けてから
REITに売却するという流れが
ありました。
そのため、不動産投資会社は
こぞって、自社系列のREITを
立ち上げました。

しかし、昨今のREITの破綻等に
より、REITが従来のように
不動産を購入することができなくなりました。
その要因には、銀行からの資金調達が
難しくなったことと、不動産市況の
不透明さから、REITのキャッシュ
ポジションを高めようとする
傾向があることと、REITとして
購入するために求めるキャップレートも
高くなっていることが、上げられます。

行き場の失った開発物件は、当初
予定していた売却ができないため
リファイナンス等をして、引き続き
GK等のSPCが保有するか
外部へ売却するしかありません。

今年の8月、9月にかけてこのように
リファイナンス等を行うことを
予定している案件が、多く控えて
います。

不動産評価に鑑定評価は必要でしょうか

販売用不動産の低価法適用や
固定資産に計上されている
不動産の減損会計の適用の場面で
不動産を評価しなければならない
場面が増えております。

その場合の評価額算定時に
鑑定評価を取るべきかどうかは
悩ましいところです。
鑑定評価を取れば、一定のコストを
要しますが、第三者意見であり
客観性があり、税務当局や関係当事者への
説明資料としての説得力は
高くなります。

そうではなく、AM会社等による
レポート等で、済ませようとする
こともあろうかと思います。

税務上は、低価法の適用について
必要な根拠資料を明示しておりませんが
税務当局への説明資料としては
低価法を適用する事業年度では
鑑定評価書を取ることが望ましいと
思います。

更に、今後、賃貸等不動産の時価
開示が始まります。
であれば、時価が開示される四半期
毎に不動産鑑定が必要かと言えば
そこまでは、さすがに要求されないと
思います。
しかし、導入初年度には、鑑定を
取る物件は、多く出てくると思います。