不動産保有リスク管理のためのCRE戦略

不動産価格は、過去のように
右肩上がりは期待できないので
企業は、不動産保有に関する
リスクを十分認識していくことが
必要です。

不動産を保有することで発生する
リスクには、市場価格が変動する
ことによる含み損の発生するリスクの
他に、不動産固有のリスクがあります。

例えば、土地について、過去の地歴から
土壌が汚染しているリスク
建物の使用材料にアスベストを
利用していたから、その除去費用発生
リスク、PCBを保管しており
その除去費用発生リスクなどが
あります。

リスクとは別に機会費用が発生
していることもあります。
つまり、有効に活用すれば
収益を生む不動産を持っているにも
かかわらず、放置しているケースなど
です。

このように、不動産を保有する企業は
そのリスクを理解し、対処する手段を
持っておく必要性が高くなっております。

不動産の棚卸が、CRE戦略の入口

通常、物販をしている会社なら
少なくとも1年に1回 棚卸を
していると思います。
棚卸をすれば、単に在庫の数量という
情報だけでなく、在庫の偏りや
陳腐化度合など、目で見てはじめて
わかる情報をつかむことができます。

CRE戦略では、まず、不動産を
棚卸することから、始まるものと
思います。
不動産の場合、物的にはなくなるという
ことは、おそらくないでしょうが、
権利関係(所有権、担保権、占有状態、境界)
行政的要因(用途地域など)
稼働状況、近隣の状況 時価の状況(現況、推移)
修繕計画
など、あげればきりがありませんが、
これらを整理して、保有する全不動産について
検討し、比較することから
CRE戦略が始まるものと思います。

不動産といえば、上記のような様々な
ファクターを、抱えているため、なかなか
面倒くさくて、棚卸などしていない
会社も多いと思います。
恐らく、多くの企業では不動産の棚卸を
することで、いろいろな問題点が
見えてくると思います。通常の
在庫の棚卸のように。

最有効使用という考え方とCRE戦略

不動産鑑定の作業では、対象地について
最有効使用とは、何かという検討をします。
最有効使用とは、対象地において、
最適で合理的な不動産の利用のことです。

例えば、銀座の目抜き通りに、戸建住宅が
あれば、大抵の人は、こんなところには
戸建住宅を建てるのではなく、商業施設を
建てるべきだと思うでしょうし、
逆に、交通の不便なところに、都会に
しかあるそうもない、高層のビルがあれば
こんなところには、似つかわしくないと
思うでしょう。

不動産鑑定では、その土地・土地に応じた
最適な利用と現状を比較検討しながら、
不動産鑑定を行います。
場合によっては、現況建物を取り壊して
最有効な建物を建築することを想定して
鑑定評価を行います。
不動産の最有効使用は、時の
経過とともに、変わっていきます。
対象地の昔の町並みを写真などで、見る
ことが出来れば、そのことは、手に取る
ようにわかることでしょう。

企業が保有する不動産についても、
最有効となることが、CRE戦略を
検討するにあたっての切り口になると
思います。

ただ、単に最有効使用にすることだけが
CRE戦略で、検討すればよいのではなく
企業としての最有効使用とは、何か
ということも考えなければならないと
思います。
企業の不動産は、それぞれ独立して
企業経営において、機能しているわけではなく
他の不動産と有機的に関係を、及ぼしながら
機能しています。
その中で、最有効な利用方法を検討する
ことちなると思います。
単純に取り壊すとしても、資金を要しますし
場合によっては、代替地を探さなければ
なりません。
企業というものは、日々活動をしているので
単純に保有不動産を取り壊したりは
できないものです。

これが、単純な不動産の有効活用と、CRE戦略
との違いではないでしょうか。

CRE戦略を検討すべき企業とは

CRE戦略を検討すべき企業は、
どのような企業が多いでしょうか?

一般に、新興企業は、不動産を保有しておらず
賃借しているケースが多いと思います。
企業が成熟して、資金力がつけば、不動産を
保有する余力も出てくることと思います。

そのため、不動産を多く持つ企業は、ある程度業暦の
企業が、多いと考えられ、そのような企業が、
CRE戦略を検討する必要性が高いと思います。

企業と不動産とは、長い目で付き合って
いく必要があります。
一方で、不動産の時価会計導入により
リスク資産という認識も必要に、なってきています。
リスクに対しては、何らかの管理手法が必要かと
思います。また、不動産の金融商品化という
トレンドの基では、不動産の市場動向を、睨みながら
企業は行動する、又は対処することが必要ではない
でしょうか。

右肩上がりの土地神話は、もう起こらないでしょうから
不動産を利用して価値を生み出す努力が、
不動産を保有する企業としては、
より大切になっていると思います。

貧乏人の銭失いにならないためのCRE戦略

建物を取得した場合、その取得による
費用と比べて、数倍のライフサイクルコストを
要するといわれています。
ライフサイクルコストとは、建物完成から滅失
までに要する修繕費等のメンテナンスコストの
ことです。

この長期修繕計画を作成して、経営計画に
織り込むことが重要と考えています。
この必要なライフサイクルコストを、
惜しむと、後の修繕費が高くつき
結局のところ、損をすることとなります。

建物とは、長い付き合いをしなければ
ならないので、会計年度のような1年または数年
タームで物事を考えていると、かえって
支出が多くなってしまいます。

貧乏人の銭失いにならないような
長期修繕計画を立てることも、CRE戦略上は
大変重要なことと思います。

企業に応じたCRE戦略がある

CRE戦略の書籍を見れば、実際の
CRE戦略の採用企業の例示が
出ています。
そこに、出てくる企業は、売上数兆円の
巨大企業(日産、東芝など)が多く出てきます。
そのような巨大企業のCRE事例は、参考に
なりますが、全ての企業に
そのままあてまめることはできないと
思います。
企業の背の丈にあったCRE戦略があると
思います。

CRE戦略の際に、不動産管理用ソフトの
導入事例が出てくることがあります。
代表的なソフトが、@プロパティというものです。

私どもの事務所でも、不動産ファンドの
経理処理のため@プロパティを使っています。
しかし、このソフトは、かなり詳細な機能を
備えていて、CRE戦略を導入する
全ての企業に、必要なものであるかと
いうとそうではないと思います。

恐らく、CRE戦略にあてって、専用ソフトを
導入すべき企業は、全体の中では
少数派になるものと思っております。

いずれにせよ企業の背の丈に応じた
CRE戦略があります。

不動産投資ファンドをCRE戦略の観点から検証

最近の不動産市場にも、大きな位置を占めるようになった
不動産投資ファンド会社が、組成する不動産投資ファンドを
CRE戦略の観点から検証してみる。

一般に、不動産を現物として購入する場合と
SPC等を組成して、購入する場合とでは、
コスト的には、SPCを利用する方が
高くなることが一般的です。
なぜなら、SPCを組成するにも、運営するにも
弁護士や会計士等の専門家報酬、アレンジ費用や
融資手数料等が別途必要に
なるからで、SPCを利用することによって
コーポレートローンより金利が低く
なったとしても、全体としては、コストアップ
となるからです。

であるならば、わざわざ、SPCを利用して
不動産投資することのメリットは、CRE戦略の
観点からは、ないのではということとなります。

結論としては、そうではなく、SPCを利用する
ことで、レンダー(金融機関)は、ファンド会社の
信用リスクを考慮せず、不動産の収益性だけを
もって融資判断でき、不動産ファンド会社が
SPCを利用しない場合より、多くのプロジェクトを
実行することが可能となります。

つまり、1物件あたりの収益額が小さくなっても
多くの物件をこなすことによって
収益額の絶対値をあげることが、SPC利用に
よって期待できます。

ここ5年から10年程度で、東京を中心に
急成長した不動産ファンド会社は
これらの手法を利用して、取り扱い不動産残高を
伸ばしてきました。

最近5年程度の不動産市況が、上昇した
局面では、投資額を増やすことで、レバレッジ効果も
期待できたことから、CRE戦略の観点から見ても
SPC等を利用した不動産投資に合理性は
あったと思います。

ゼロベースで考えるCRE戦略

不動産には、思い入れがあることが
多くあります。以前のブログでも、企業の場合
創業の地に対しては、愛着があるように
全てが、経済合理性のもとで、意思決定される
ものではありません。

そのような不動産と向き合って、企業経営に
活かすために、ゼロベースで、不動産を
見直すことが、CRE戦略の起点になるものと
思っています。

昨日のブログでは、数値分析の限界について
触れてみましたが、数値分析をすることが
無意味なのではなく、数値分析をすることで
見えてくるものは、経営に活かしていけば
良いものだと思います。

ゼロベースで、見直すことで、今まで
見えてこなかったものや、気がつかなかったことや
新しいアイデアが生まれてくるものだと
思います。
今までの既成観念にとらわれない為にも
全ての不動産を洗いなおす作業は、それなりに
有益だと思います。

CRE戦略での数値分析の限界

CRE戦略では、不動産のリスクを数値化するという
お話をしましたが、数値化による問題点もあります。

例えば、減損会計適用リスクに不動産が、どの程度にまで
接近しているかを検証するため、不動産毎に
収益性を計算したとします。
その結果、A不動産は、10%、B不動産は、5%
C不動産は、1%だったとします。
不動産保有企業の投下資本利益率が、3%とすれば
C不動産は、収益性を引き下げる物として、てこ入れを
するか、場合によっては売却も検討することとなります。

しかし、企業経営において、A不動産、B不動産、C不動産は
バラバラに存在しているのではなく、それぞれ
企業の数値に現れる収益だけでなく、様々な方面に
影響を与えています。

この例として、不動産ではありませんが、吉本興業という会社では、
タレントのテレビ出演による出演料収入や
キャラクターグッズの売上が、極めて収益性が高いのですが
なんばグランド花月などの、舞台での売上や収益性は
低いものだそうです。

だからといって、なんばグランド花月を閉鎖するようなことは
吉本興業はしません。
なぜなら、舞台というものは、芸人によって、生の観客に
触れる場所であり、テレビ出演しているタレントが
人気が落ちてくれば、舞台に出て、生の観客に触れることで
芸に磨きが入り、人気が回復することがあるからだそうです。

長い言い回しになりましたが、企業経営では、低採算
又は不採算でもしなければならない事業もあるという
ことです。
CRE戦略の過程で、リスク等を数値化しても、見えてくるものと
見えてこないものがあるのだと思います。

不動産有効活用とCRE戦略

CRE戦略は、不動産の有効活用だと
思っている方も多いかもしれませんが
有効活用と、CRE戦略とでは、目線が
少し異なると思います。

有効活用というのは、個々の不動産のみ
フォーカスを当てて、もっとも有効な
利用方法を検討することで、不動産鑑定で
いう最有効使用にもっていくということに
視点が似ていると思います。

一方で、CRE戦略とは、個々の不動産という
視点ではなく、企業全体から俯瞰して
そこから、各不動産の位置づけや
利用状況・形態、収益計上状況を
判定して、会社の戦略と不動産の利用方法を
関連付けていくということで
有効活用より、広い目線で検討する
ことになろうかと思う。

CRE戦略を実行するにあたっては、
有効活用のように、個々の不動産について
現況を調査することは、不可欠かと思いますが
集めたデータを、企業の保有または利用する
不動産毎に並べて、比較検討して、どのように
利用していくか戦略を練るというところが
有効活用では、しない作業であると
思います。

不動産全体を俯瞰するということが
有効活用とは、異なる大きな点であると
思います。